3/9サン・マリノ旅行記1 トークショーは止められない

本日は、ウルビーノからサン・マリノへの一日遠足っ!

サン・マリノとは。正式名称をサン・マリノ共和国という。…そう、れっきとした「国」である。イタリアの中には、国の中に国があるって感じで、バチカン市国と、サン・マリノ共和国という、世界で一番目に小さい国と、二番目に小さい国が含まれているのである。

サン・マリノという名前からわかるように、サン・マリノは、聖マリーノという聖人に由来する国である。そのため、私は勝手に、バチカンと同じように、キリスト教的な理由から、独立が許されている小国なんだろうなーと思っていたのだが、そういうわけではないらしい。断崖絶壁に位置する、他国が侵略しづらい地形と、独特の政治システムで、長い間独立を守っているのだそうだ。

とはいえ、イタリアには、断崖絶壁にある町は多く、ほとんどの町は、昔は都市国家として独立していたが、そのうち近隣の強国に吸収されていった。その中で、なぜサン・マリノだけが独立を続けていられたのか、そのへんの詳しい事情は、不勉強な私にはわからない。何となくだが、19世紀のイタリア統一の際に、わざわざイタリア側に併合する理由がなかったためではないか、と、ちょっと消極的に考えている。

結果として、サン・マリノが独立国家であることは、今のイタリア、サン・マリノ両国にメリットとなっているように思う。イタリアから見れば、「世界最古の小さな共和国」という観光地を国の中に抱えるわけだし(サン・マリノに行くためには、どうやったってイタリアを通って行かなければならない)、サン・マリノ自身も、同じ謳い文句で、観光客を大勢呼び込むことができる。おそらく、あの小さな国が、今なお独立していられるのは、観光業が成功しているからである。

実は、私は観光地という観点からは、あまりサン・マリノには共感できずにいた。入国スタンプを押すのに、わざわざお金を取るし(意味不明!)、サン・マリノ共和国発行のユーロコインを、この国でしか発行されていないレアものとして、パッケージにして、合計金額以上の値段で、お土産として販売しているのだ(これも理屈がオカシイと思う!通貨の意味ナシ!)。

もちろん観光業も商売である以上、お金儲けのための手段を考えるのは当たり前なのだけど、これではあまりにあこぎな商売ではありませんか、マリノ君!と言いたくなる。

そんなサン・マリノに、母が、行ってみたい、と言い出した。テレビで、サン・マリノの特集を見たのがきっかけだそうだ。姉と私だけだったら、絶対に足を運ばないであろうサン・マリノ共和国。旅は道連れというけれど、決して自分ひとりでは行かないような場所に、人に誘われて行ってみるのも旅の面白みである。というわけで、サン・マリノへの縁をもたらしてくれた母に感謝しつつ、サン・マリノまで行くことにしたのだ。

地図で見ると近い、ウルビーノとサン・マリノ。しかし、ウルビーノが陸の孤島に近い町であることは、このブログでも何度が書いている。ウルビーノから近い観光地はいくつかあるのだけれど、公共の交通機関で利用しやすい頻度で結ばれているのは、海岸沿いのペーザロだけである。

それでも、知る人ぞ知る、ウルビーノとサン・マリノを結ぶ糸があるのではないか…と、調べに調べた結果、見つけたあっ!ウルビーノとサン・マリノを結ぶバス路線!Bonelli Busというバス会社が、ウルビーノとサン・マリノを結んでいるっ!

喜び勇んで、Bonelli Busの公式サイトで、リミニ―サン・マリノ―ウルビーノを結ぶ路線の時刻表を探した私。で、時刻表は見つかったのだが、サン・マリノとウルビーノを結ぶバスは、一日一本くらいしかなかった。一本でもいいよ。それに合わせて行動するからさ!…と思ったのだが…。

ウルビーノからサン・マリノ行きのバスは一日二本で、ウルビーノを13時50分発と、17時35分発。サン・マリノからウルビーノに行くバスは、一日一本で、サン・マリノを朝6時50分発。…ええと。これ、どう考えても、ウルビーノからサン・マリノへの日帰り旅行はできないバス…ですよね?どんな裏技を使おうと、このバスでウルビーノからサンマリノへ日帰りするのは無理、でオーケーですよねっ?

いったいどこの痴れ者が、何の目的で、こんなわけわからないバススケジュールを組むんだっ…!と、またイタリア(いや、サン・マリノか?)を罵倒しかけた私だが、冷静に考えると、コレ、学校の登下校に合わせたスクールバスですね。おそらく、サン・マリノ側から、ウルビーノまで通っている学生さんたちがいるのだろう。だから、朝と夕方、一方通行のバスなのであろう。てことは、サン・マリノの方からウルビーノに日帰りするのは、このバスを使って可能なんだなあ。

とゆーわけで!我々に残された選択肢は、たくしぃぃぃっ!ハイ、タクシーです。たまにこの旅行記でも書くのだが、タクシーってのは便利だけど、高いし、バスや電車に比べると旅情がないし、高いし、私が、他に何の手段もない、と諦めた時に使う乗り物である。スーツケース持っている時とか、夜とかなら仕方ないけど、真昼間の日帰り旅行にタクシー。ああ、負けた気分である(旅行を勝ち負けで考えてはいけません)。

ウルビーノには、タクシー乗り場が二カ所ある。城壁内のレプッブリカ広場近くと、城壁外のバスターミナルになっているメルカターレ広場である。レプッブリカ広場に行ってみると、タクシーはいなかった。まあね。想定内だよ。城壁外まで出て、メルカターレ広場に行ってみると、タクシーはいなかった…。ま、まあね、これも想定内だよ…。

そこで、広場に面しているインフォメーションに行って、「すみません、タクシーがいないんですけど、呼んで頂けますか?」と助けを求めてみた。

インフォメーションの男性スタッフさんは、まず一人目のタクシー運転手さんに電話をかけてくれたが、電話に出なかった。二人目でタクシー運転手さんがつかまって、この広場に来てくれることになった。ついでに、サン・マリノまでのおおよその運賃と所要時間を聞いてもらうと、90ユーロくらいで一時間程度と言われた。ま、3人で行くならぎりぎりアリかもね。

ウルビーノ

タクシーが来るまで、メルカターレ広場からウルビーノを見上げてみた。やっぱり、ドゥカーレ宮殿の塔が工事中なのが残念だなあ。タクシー乗り場でタクシーを待っている間、おじいさんが近づいてきて、「もうタクシーは呼んだのかい?」と聞かれた。「インフォメーションで呼んでもらいました」と答えると、「ああ、×××かあ!」と、男性の名前を口にした。ウルビーノのタクシー運転手は、住民に覚えられるほどの数しかいないのだろうか…。

タクシーは5分程度でやってきた。サングラスをかけた、長身のおやっさんって感じのドライバーである。長身痩躯のせいか、さすが大学の町ウルビーノのドライバーだね、ややクールそうだね、というのが第一印象であったが、それは大間違いであったことが、あとから明らかになる!

タクシーがウルビーノ城壁を離れると、辺りの風景は、あっというまにマルケ州の緑に囲まれた。トスカーナ州、ウンブリア州、マルケ州といったイタリア中部の町は、緑のゆったりとした平地の中に、ぽこぽこと丘があって、その高台に城壁のある町がある、という風景が多いが、州ごとに、何となく緑の雰囲気が違う気がする。トスカーナ州の緑は何となく元気、ウンブリア州は素朴、マルケ州はのどかって感じだ(この分け方じゃ意味不明だよ)。

ウルビーノからサン・マリノ
マルケ州ののどかな緑。…と言ったって、この写真を見せられて、「ここはどこの州でしょうか?」と聞かれても、マルケ州とは答えられないけどね!

イタリアのタクシー運転手は、観光客を乗せると、途端に運転手兼ガイドになる人が多いのだが、この運転手さんも多分に漏れず、であった。緑の中を走りながら、「この辺りもウルビーノなんだ。あの城壁の中だけでなく、この辺り一帯がウルビーノなんだよ。ウルビーノはでっかいんだ」と、イタリア語混じりの英語で説明を始めた。

すれ違いざまに、サイクリングの自転車マンが来ると、「今日は日曜日だから、自転車が多いんだよ」と、言い、そのあと、本当に大量の自転車マンがやってくると、「ほら、ほら、オレの言ったとおりだろ?」と嬉しそう…。うん、これは、しゃべりまくりタイプのドライバーだな…。

ウルビーノからサン・マリノ

運転手さん「右手に見える、あの塔を見てくれ!あそこから伝書鳩が飛んで行っていた塔なんだ。鳩…わかるかい?(と言いながら、運転中なのに、ハンドルから両手を離して、飛んでる仕草をする)ええとね…クルックークルックー(ハトの鳴きまね)…そう、わかった?」。…もはや、何のコントだ…。

そして運転手さんはおもむろに車を停めた。「ここからの眺めが良いから、写真に撮るといいよ!」。

ウルビーノからサン・マリノ

…どこの眺めが良いって…?(と思いながら、写真を撮ってあげる優しい日本人)。こんなどうでも良い所で停まらなくていいから、早くサン・マリノに連れて行っておくれよ!

彼は、今日は霞が出ているから、明日は雨だ!と何度も自信たっぷりに言った。本当かねー(実際は、翌日は晴・れ・ま・し・た!)。

車窓から見えている、モンテ何とか(忘れた)とかいう町が美しい…とか、見える町全ての解説を始める運転手さん。その中にサン・レオが出てきた。確かイタリア 24の都市の物語 (光文社新書)に出てきた、アニメ・ルパン2世の「カリオストロの城」のモデルになった、監獄のあった町で、ちょっと興味がある町だ。

そこで、「サン・レオなら知ってます~」と言ってみると、「サン・レオは今、問題を抱えている。岩石が、崩落しかけてるんだよ」とのこと。そっかー。大きな岩の上に乗っかっている感じの町で、いつか行ってみたいのだが、心配だなあ…。

何か、大きな横断幕のような下を通り過ぎると、運転手さんは、「ハイ、ここからがサン・マリノだよ。ここからは、サン・マリノナンバーの車が多くなるよ。ホラ、今のがサン・マリノの車。あっ、今のも!」と教えてくれた。サン・マリノの車には、サン・マリノの紋章がついている。

ちなみに、この国境を過ぎてから、サン・マリノの市街地まで、それなりに車で走った。すごく小さい国だと思っていたサン・マリノだが私が想像していたよりは大きかった。地方の小学校校区くらいの大きさはあるんじゃないかなー(何とわかりづらい例えだ…)。

サン・マリノの市街地に着くと、運転手さんは、「帰りはどうするの?オレが迎えにくるよ!どう!?」と、熱心に言い寄ってきた(「言い寄る」の使い方間違ってます)。まあ、サン・マリノにタクシーがいるかわからないし、だいたいの値段がわかっている方が安心だろう、ということで、時間を指定して、迎えに来てもらうことにした。

本当は、サン・マリノでどのくらい遊びたいかわからないから、時間の約束をせずに、電話するのが一番なのだろうけど、ホラ、家の家族はみんなガラケー遣いなのでね!海外で通話すると高いし、電話で英語やイタリア語で話せるほどは、語学がタンノーではないのですよ!いやー、イタリア語や英語で電話ができたら、旅行中は楽なんですけどねー。精進したいでありますよ。

サン・マリノ

さて、こちらがサン・マリノのサン・フランチェスコ門。サン・マリノには、大抵の方は、リミニ(海側)からバスで行くことになると思うので、その場合は、この門の反対側から町の中に入ることになると思われる。

サン・マリノ

門の前には、こんなユカイなサン・マリノ色(紋章の色)の観光バスがいた。このタイプの観光バスを見ると、ああ、観光地に来たなあという気分になる。

母が、「せっかくだから、パスポートに入国スタンプを押してもらおうかな」と言う。実は入国スタンプは、必須ではなく、希望する人だけ、インフォメーションで押してもらうのだ(前述のように有料)。まあ、強制的に有料のスタンプを押すわけではないってのは、良心的である。

そこで、地球の歩き方に、サン・フランチェスコ門近くの城壁外にインフォメーションマークが書いてあったので、そこにいた、サン・マリノの警官に、「この近くに観光インフォメーションがありますか?」と聞いてみると、「え…インフォメーションは城壁内だと思うんだけど…えーと…この辺にもあったかなあ…」と頼りないお返事だった。…サン・マリノ人はイタリア人と大差ない(頼りないという意味)のでは?という印象を、観光客に与えてしまったおまわりさんであった。

地球の歩き方を頼りにウロウロしてみると、建物の中の方に、わかりづらいがインフォメーションが見つかった。親切なおばあさんが対応してくれたが、スタンプはここではなく、城壁内のインフォメーションで押しているそうだ。日本語の地図やパンフレットをたくさんくれた。個人的には、地図に載っている、日本語で「おもしろ博物館」と書かれている建物がとっても気になるのだが、訪問する時間はあるかねえ(なかった)。

で、スタンプを求めて、城壁内に入った。…が、スタンプの前にトイレに行きたいよ。公衆トイレがあったので(もちろん有料。サン・マリノのモットーは「骨の髄までしぶとく観光業」じゃないかと思ってしまうよ)、入ってみると、確かにここはイタリアではない、ということを実感できるハイテクトイレであった。

サン・マリノ

この、科学館のエレベーターみたいなものがトイレである。1回50セントなり。コインしか使えないのだが…

サン・マリノ

しっかり両替機が設置しであるのだよ!両替マシンをイタリアで見ることって、ほとんど無いのだ!

中で、ちょっと可笑しかったのは、トイレットペーパーが自由に使えなかったことであった。そんな長さで足りるか!という一反木綿のしっぽみたいなペーパーが手動で出てくるのだが、このペーパー、延長はできるが、回数制限があった(10回だったかな?)。このシステムへの投資と、トイレットペーパーの値段を考えた時に、これが儲かるシステムなのかは甚だ不明なのだが、骨の髄までしぶとく観光業なのである(アンタ、その言葉気に入ったんだね)。

さて、ハイテクトイレで、イタリアの外にいることを堪能した後は、インフォメーションへ。

サン・マリノ

ココで、母のパスポートを出して、「入国スタンプ下さい~」と言うと、手慣れた感じのスタッフが、パスポートにバンっとスタンプを押し、サン・マリノの切手を貼ってくれた。その切手が5ユーロだったので、スタンプ代というよりは、切手代なのだね。でも、切手いらないからタダでスタンプ押してくれって言ったって、押してくれないんだろうなあー。日本の観光地みたいに、スタンプ置いといて、セルフサービスで押させればよいのにね。それだったら、私だって押すよ。

サン・マリノ

これが、サン・マリノの入国スタンプ&入国記念切符。母のパスポートを撮らせてもらった。

というわけで、スタンプをゲットしたので、ここからサン・マリノを歩こう。タクシー運転手がしゃべりすぎたせいで、長くなってしまったので、サン・マリノの町歩きは次回へ。