プラートからフィレンツェへと戻り、いったんレジデンスに帰った。昨晩、今朝とお湯が出なかったので、念のため確認してみると、やはりお湯が出ない!
がーん。信用できそうな、利用者評価の高いレジデンスだったため、一時的なものかと思って放っておいたが、これはヤバい。
ってなわけで、フロントに行って、イタリア人スタッフの女性に、「昨日からお湯が出ないのですが…」と訴えると、スタッフは、ちょうど今、宿泊客に向けて「お湯が出ません」という張り紙(…というより、大きめの付箋…。このへんがイタリア的…)を手書きで作っている途中だったようで、「ごめんなさい、給湯器が壊れていて、修理は明日じゃないと来てくれないの。今日の宿泊分を値引きしますから」とのことだった。
「もう宿泊費は払っちゃったのですが」と言うと、「じゃあ、値引き分をお返しします」とのこと。信用できるレジデンスではあるんだけど、何せ相手はイタリア人なので、「いつ、いくら返してもらえるのですか?」と聞くと、「じゃあ今もう一人のスタッフに電話して確認します」と言われた。
電話の結果、「本日の宿泊分を35ユーロ値引きして50ユーロにしますが、それでよいですか?」とのこと。ここまで私がつたないイタリア語で交渉したので、姉に内容を説明すると、「えっ!?こちとら、わざわざバスタブ付きの部屋を選んで泊まってるんだよ。半額にしてもらえ、半額に!しかも、昨日の夜だってお湯は出なかったんだから、昨日の宿泊費も値引きしてもらえ!」と言う。
…ええと、うちの姉さんの言うことももっともではあるし、何せうちの姉さんは値引き交渉大好き人間なのだ。だけど、私は、昨年体調を崩してこのレジデンスにお世話になってるし、イタリア語でうまく伝えられなそうだし、もういいや、という気分になった。
なので、何とか姉に折れてもらって、35ユーロを返してもらうことで決着がついた。だけど、こういう時のために、もう少しイタリア語でペラペラと交渉できるようになりたい、とつくづく感じた。
っというわけで、今日はお風呂に入れないよ!バスタブがあるけど入れないよ!元気出して遊びにいこ~!
「とりあえず、ドゥオーモに、プラートから帰ってきたという報告をしよう」と、ドゥオーモに行った(フィレンツェ滞在の基本原則)。ドゥオーモ内部は無料なので、「たまには入ってみる?」てなわけで、ドゥオーモ内に入った。主祭壇奥にある、ロッビア作品を見たかったのだが、ロープが張ってあって近くまで行けなかった。
それ以外は、ドゥオーモ君内部はまあ普通である。でも無料で入れるので、皆さん気分転換にどうぞ。ヴァザーリに「同情は呼んでも感動は生まない」とか言われた、遠近法オタク・ウッチェッロの騎馬像の絵もあるのだが、感動だけでなく、同情も生んでなかった…。
だって誰も見ていない…。
だいたい3時前だったので、「おやつの時間だね」ということで、揚げ立てドーナツで有名な「Cucciolo」に行ってみた。普段なら、ジェラート屋ペルケノに行くのだが、ちょっとプラートが寒くて冷えちまったので、ジェラートは断念したのだ。
揚げ立てドーナツはイタリア語で「bombolone」と言うのだが、「bombolone」と書かれたケースが空だったため、「次いつ出来上がりますか?」と聞いてみたら、「いつでも出来上がるよ!」と言って、キッチンから熱々のドーナツを出してくれた。
「ひとつ下さい(ダイエットのため半分こ)」と言って1ユーロ出そうとすると、「いいよ、いいよ、味見であげるよ」と言われた!わーい!もらっちゃったっ♪砂糖をまぶしてあり、中にカスタードクリームが入っているという、カロリーがすさまじそうなドーナツだが、ペロッと食べてしまった。
ドーナツをめぐんでもらって、気分も良くなり、「ジュリアーノの墓参りにでも行くか」とメディチ家礼拝堂に行ったが、閉まっていた。何か、フィレンツェさんに振られるのも、慣れてきたよ!
そこで、「もう今日はプラートも行ったし、リッピの日にしようか?」てなわけで、フィリッポ・リッピの「受胎告知」の残るサン・ロレンツォ教会に入った。去年も入ったけど、何回入ってもよい~♪メディチ家のおかかえ教会のような教会だが、力強くてシンプルな柱が立ち並ぶ内部が素敵な教会だ。1月にNHKのBSの番組で見たのだが、地下の秘密通路にはミケランジェロのデッサンも残っているらしい(見学はできないのだが)。
お目当てのフィリッポ・リッピの「受胎告知」のある礼拝堂へ行くと、貸し切り~♪相変わらず、驚くマリアの表情は優美で、告知にやってきた大天使ガブリエルとお伴の天使二人はかわいい~♪
フィリッポ・リッピの絵なら何分でも見ていられる我々は、この絵を一人占め(二人占めか)して、ずーっと見ていたが、二人ともほぼ同時に、あることに気付いた。「何だか、ガブリエルとお伴の天使二人が、太った?」。特に、お伴の天使二人の膨張ぶりがすさまじい。
やむを得ず、我々は、手前のこちら側を見ている天使を「ブー」、奥の下を見ている天使を「プー」と名付けた。ブーちゃんとプーちゃんは、それぞれ黒と赤の羽根を持っていたが、その羽根では飛べないのでは…と心配になる太り方だった。(冷静に考えれば、絵の中の天使が太るはずはないので、初見と再見の印象は違う、という面白みでございますね)
サン・ロレンツォ教会のチケットを見ると、教会に入る時にもぎられたのとは別に、点線でつながっている部分があって、「宝物の部屋」みたいなイタリア語が書いてあったので、係員さんに「これは何ですか?」と聞いてみると、教会の外の回廊の奥の方に、「宝物庫」があり、そこにも入場できるらしい。へー。去年は知らなくて、入らなかったな~。
てなわけで、「宝物庫」に行ってみた。サン・ロレンツォ教会に入場する人は、ほとんどこの宝物庫まではこないらしく、人少なすぎだった。「宝物庫」と言っても、教会の地下みたいなかびくさい空間に、メディチ家の収集したお宝…ええと、具体的に書きたいのだが、私にはよくわからない骨董品!…が並べてあるだけだ。
骨董品に興味もなければ、こういうものの価値もわからない庶民の私は、「ほー」と言いながら見ただけで、むしろ、こんな地下のような空間の、天井部分に絵が描いてあったのがおもしろかった。
宝物庫の奥の方をのぞくと、なんと、コジモ・ディ・メディチのお墓があった。へー。こんな所にあるんだ~。フィレンツェの、「祖国の父」と言われるコジモだが、こんな観光客の穴場でひっそりと眠っているんだな~。
コジモのお墓の周りには、意味不明なものがたくさんあり、姉が写真を撮りたがったので、女性の係員さんに「ここで写真撮影してもいいのですか?」と聞いてみると、「わかんない。だから、内緒でささっと撮ってくれる?」と言われた。イタリア的…。
わざわざ撮った意味不明な写真。
サン・ロレンツォ教会を出た後、ドゥオーモの上を見上げると、人が上っていた。「おっ!今日は開いてるね!」てなわけで、ドゥオーモのクーポラに上ることにした。ドゥオーモのクーポラは、南側から上るのが通常なのだが、工事中のため、北側の出口が、入り口も兼ねていた。
行列ではあったが、まあ終わりの見える行列だったため、並んだ。けど、じっと待っているのは寒い~。日本人も数人いたので、日本人の我々で音頭を取って、行列に並んでいる人々で「おしくらまんじゅう」をするのにちょうどよい寒さだな、と思ったが、もちろん言い出さなかった。
だいたい15分ほどで中に入れた。ドゥオーモのクーポラは19時半まで上れるが、ドゥオーモ自体は17時で閉まってしまうため、ドゥオーモの中は係員さん以外無人であった。誰もいないドゥオーモがとても新鮮だった。誰もいない広い空間を見ると、ついつい走り出したくなる私は、いったい何の病気なのだろうか…。
さて、クーポラを目指してとことこ上るぞ!とことこ、とことこ!イタリア旅行にちょっと人生をかけすぎている我々は、昨年、坂道だらけのウンブリア旅行で足が疲れたことを反省し、1年間、週末ランニング&ウォーキングで鍛えたので(イタリア旅行のためにランニングしているヤツは、日本広しと言えども我々くらいのものだろう…)、割と楽に上れた。でも、客観的に考えると、2年前に上ったジョットの鐘楼より、やや体力を使うコースだと思えた。
クーポラに出る前に、ドゥオーモの天井画・ヴァザーリの「最後の審判」を拝めるスペースに出る。混雑時は立ち止まり禁止の狭いスペースだが、シーズンオフで、また時刻が遅めだったためかそれほど人が多くなかったので、じっくり鑑賞できた。
しかし、この絵…。最後の審判なので「良い人たち」「悪い人たち」のグループにしっかり分かれているのだが、どうしてこんなに「悪い人たち」の方に目が行ってしまうのか…。
このへんが「悪い人たち」ゾーン
悪人をむしゃむしゃ食べている悪魔大王。
「んべえ~」。明らかにチンピラの小鬼。一体何をやってるんでしょうねえ…。私にはうさんくさい福引きをしているように見えるのですが…。(持っているのがくじの入った箱)
「んがー!」。こやつに追いかけられている人々が、前にいます。こんなヤツに絶対追いかけられたくない…。まじめに生きて、地獄行きにならないように気をつけよう~っと。
さて。天井画を大いに堪能した後、クーポラのてっぺんに出た。はじめまして、クーポラのてっぺんっ!2年前にこのクーポラのてっぺんの人たちから、ジョット鐘楼のてっぺんで見降ろされたので、今度は私が「エッヘン!」とジョットを見降ろしてみた。レヴェル低いっ!ドゥオーモを一周して、フィレンツェの街を見降ろしてみる。いや~、下から見ても、上から見てもやっぱりかわいい街っ!
ジョットの鐘楼を見降ろせ!2011!
そろそろ夕陽が沈む時間で、ジョットの鐘楼方向に、陽が傾き始めた。ほ~。ジョットの方向に沈むとは、粋だね!粋!そこで、夕陽が沈むまでずっと、この頂上にいることにして、夕陽スポットをゲットしようと思ったら、一番の特等席は既に日本人の女の子二人が予約済みだっため、二番目のS席あたりをゲットした。
夕焼けに輝くフィレンツェ。
ずっと頂上にいると、だんだん冷えてきたが、「冷え」で夕陽を諦めてはならない。我々はダウンコートをしっかり閉めて、フードもかぶって夕陽を見つめた。
ただ、最近視力の低下を気にしている私は、直射夕陽をずっと見て目が悪くなってはいけないと思い、しばらく夕陽を見た後は、フェンスの柱部分に夕陽を隠すように視線を移動して、目を休めた。この「夕陽、ときどき休む」作戦を姉にも推奨したが、姉には「うるさいよ」と言われた。
姉は、視線をわざわざずらして目を休めるのではなく、時々目を閉じればよいだけなのでは、と思い、目を閉じると、あることを発見した。「夕陽を見た後目を閉じると、目の中に30個の夕陽が残ってるよ!」。私も実行して、「30個じゃなくて50個じゃない?」とかバカな会話を繰り広げている時に、ハッと気付いた。周りはほとんど日本人で、こんなくだらない会話を聞かれてしまった…。
それにしても、この夕陽が見えるエリアは、日本人ばっかり。しかも、みんな別々の旅行者で、団体客でないのだ。日本人以外の旅行者は、だいたいクーポラの周りをぐるっと回ると降りて行くのだが、日本人は、夕陽が沈んでいく様子を食い入るように見つめている。この夕陽が沈んでいくという、わび・さびが日本人にとってはたまらないのだ。わび・さび。
夕陽が沈んだ直後です。
夕陽が沈み終わると、我々も含めて日本人は次々に立ち上がり、クーポラを降りた。うわ~、何だか結構冷えたなあ。なのに、姉は、「グロム(ドゥオーモから近いジェラート屋)」に行こうか?」と言う。本当のオロカモノである。
でも、グロムはチョコレート系に強いので、ホットチョコレートがあるかもしれない、と思って行ってみたら、やはりホットチョコレートがあった!
姉はジェラート、私はホットチョコレートを頼むと、ホットチョコレートを作るのにだいぶ時間がかかった。そして、出てきたものを飲むと、……んまいっ!丁寧に時間をかけて作っている味である!しかも、かなり温まる!
クーポラであんなに身体の底から冷えたのに、このホットチョコレートを飲み終わるころには芯から温まっていた。フィレンツェで冷えた時は、グロムでホットチョコレートを飲むのに限るっ!
芯から温まったところで、本日の観光は終了~。だが、忘れていたが、レジデンスはお湯が出ないんだぜ…。ねえ、いったい何のためにバスタブ付きの部屋にしたんだろうねえ…。今やむなしく光るバスタブ。
足湯用のフットバスを持ってきていたので、ケトルでお湯をわかして、水でいい温度まで調整して、お湯で身体を拭いて、その後足湯をして眠ることにした。明日
はヴェローナに移動である。まあ、ヴェローナではしっかりシャワーを浴びれるさ、と我々は輝く明日へ期待することにしたのである。今になってみると、輝く明日とは、いったい何だったのであろう…。