ギリシャから我々を乗せてきた極悪船・グリは、2時間半の遅れをもって、南イタリア、プーリア州のブリンディシという港町に到着した。
こちらが、極悪船・グリの全体像。こうして見れば立派な船に見えるかもしれないが、船は外見では判断してはならないのである。人間と一緒ですな。
船から降りて、港の建物の方へと歩いていくと、湾岸警察のような男性が立っていて、船を降りてきた人の入国検査をしていた。姉と私を見て、日本語で「コンニチワ~!ヨーコソー!」と、おどけて見せた。港に降り立った瞬間、そこはイタリアだった。
しかし、彼は仕事はきっちりやるタイプで、姉と私がパスポートを渡すと、打って変わって真剣な顔になり、傍に停まっている車の中の人と一緒に、パスポートをきっちりチェックししていた。ちょっと難しい顔をして、審査に時間がかかったのは、「コイツらイタリアに来すぎだな…ちょい怪しいな」とか思われてたのだろうか。
こちらがブリンディシ港である。なかなか大きくて立派。
ブリンディシ港のトイレはニュータイプ(いや、おそらくニューではないな)で、トイレットペーパーが各個室にはついていないが、トイレの外側にでっかいペーパーロールがあり、そこから紙を持って行く方式であった。トイレオブイタリア研究家の私が、初めてみたタイプだったので、記念撮影しておいた。
トイレを出て歩いていくと、すぐに「タクシー?」と、声をかけられた。ブリンディシ港からブリンディシの鉄道駅までは、徒歩15分程度のはずだ(後から判明するのだが、違った)。結構です、と断って、我々は港の出口へと向かった。
本当は、鉄道でレッチェに向かう前に、ブリンディシも1~2時間程度ブラブラしてみるつもりだったのが、何せグリのやつ(船)が、2時間半も遅れやがったので、その時間はすっかりキレイになくなった。ランチはレッチェで食べるつもりだったのに、もうすぐ正午になろうとしている。ブリンディシ歩きは諦めて、このままレッチェに直行するしかあるまい。
港の出口付近まで歩いてきたのだが、なぜか、持参してきた地図に記載してある通りが、すぐそこにない。ブリンディシ港周辺は明るい海沿いで、カフェも立ち並んでいるハズなのに、そういう雰囲気もない。
何か変だな、と思い、そこにいた男性に「駅まではどうやって歩いていけばいいのですか?」と聞いてみると、「駅まで歩くのは無理ですよ。僕もバスを待っているので、ここからバスに乗れますよ」というお答え。
…要するに。ブリンディシの、鉄道から遠い方の港に着いたのだな、我々は。
実は、グリのやつは、公式サイトを持っていないため、ブリンディシのどの港に到着するのかが、正確にわからなかったのだ。ただ、いろいろ調べてみると、ギリシャからの船は、鉄道駅から1.3㎞くらいの場所にある港に着いたという情報が複数あったため、駅近くの港に到着するつもりでいたのである。
もともとは、駅近くの港に、朝9時頃に優雅に到着して、海沿いのオシャレカフェで遅めの朝食を食べながらブリンディシの海を眺め、駅まで移動する途中に、ローマ時代の柱くらい見ていこうという計画だったのだが、全部グリがおじゃんにした。もういい。グリなんかに乗った我々が悪かった!
そんなわけで、このバス停前で、おとなしく鉄道駅行きのバスを待つ我々。風が強くて寒い。画像でも、ヤシの木が風にあおられているのがわかると思う。
無力にブリンディシの海風に吹かれること10分程度で、バスがやってきた。バス切符はバス内で購入できて、€1.5であった。バス内でなく、事前にタバッキなどで購入すると€1で買えるらしい。
バスの中から、ローマ時代の円柱くらい見えないかなあーと車窓に張り付いてみたが、残念ながら見えなかった。
ブリンディシのローマ時代の円柱とは、アッピア街道の終点を表す柱だ。海の近く、もともとあった場所に立っているものはレプリカで、本物はコルテ・ダッシージ宮という所で、無料で見れるらしい。
港から鉄道駅まではバスで15分程度であった。
こちらが鉄道のブリンディシ駅。それにしても、風が強い。ヤシの木の荒ぶり方がスゴイ。
ブリンディシを歩く時間がなくなった以上、もうさっさとレッチェに行ってしまいたい。しかし、レッチェ行きの電車は、あと1時間強ほど待たないと、来ない。1時間強という時間は、スーツケース有りの状態で、ブリンディシ歩きをするには短い。本当に、グリのヤツ…!!!(いや、もうグリのことは忘れよう)
というわけで、おとなしく、鉄道駅前のバールで、軽く腹ごしらえをしながら、電車を待つことにした。
カプチーノと、レッチェ名物のお菓子、パスティチョット。今からレッチェに行くんだから、レッチェで食べなよとお思いになるかもしれないが、今、この時に、食べたかったんだから仕方ない。カスタードクリームの入った、クッキー生地の、お腹いっぱいになるお菓子である。
ここで食べたパスティチョットは、クッキー生地にカスタードクリームを入れたらそうなるよね、という味だったが、本場レッチェでは、もっと本場の味になるのだろう。ちょっと楽しみ。
余談だが、ブリンディシといえば、森鴎外の「舞姫」に登場することで知られている。主人公が、エリスを置いて、欧州を後にする港がブリンディシらしい。高校の時、教科書で読んだけど、全然覚えてないなあ。全く面白くなかったことしか覚えていない。大人になった今読めば、良さがわかるのだろうか。
結局ブリンディシは、駅前のバールで一服して、駅前の風景を見ただけで終わってしまったなあ。もうグリのせいかとか言わないよ。グリって何?
さて、ブリンディシを後にして、レッチェ行きの電車に乗る。ブリンディシからレッチェへは、アドリア海沿いを南下することになる。
レッチェは、5年前にアルベロベッロに行ったときに、アルベロベッロから日帰りする予定だったのだが、私鉄のスド・エスト線の遅延ぶりに恐れをなして、訪問を回避した町だ。5年越しのレッチェ訪問願望である!
バイバイ、ブリンディシ。だが、レッチェの後、また北上してアブルッツォ州を目指すときに通るので、3日後にはまた通ることになる。それでも、降車して町歩きはしないが。
プーリア州は、まだまだ未踏の魅力的な町があるので、いつになるかはわからないけど、今回お預けになったブリンディシ歩きは、また機会があるかもしれない。その時まで、またね、ブリンディシ!