イタリア旅行記ブログ イタリア旅行は楽し

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2/28ローマ8 欲望は、眠らない

<今回のイタリア旅行記メニュー>
●ボルゲーゼ美術館


 朝目覚めると、ローマは今日も良い天気であった。朝ご飯を食べた後、アカペラで歌いながら、母娘3人でラジオ体操第一をした。ラジオ体操大事。ラジオ体操を笑うものはラジオ体操に泣くっ!

 今日は、まず午前中にボルゲーゼ美術館へ行く。有名な話だが、ボルゲーゼ美術館は予約しなければ入館できない美術館である。オンライン予約が簡単らしいのだが(→ボルゲーゼ美術館公式サイト)、オンライン予約だと、その場で決済しなければならない。

 それの何が問題かというとですね、我々は「ローマパス」を使ってボルゲーゼ美術館に行く作戦なのですよ。ローマパスとは、3日間有効の、ローマのバス地下鉄乗り放題と、ローマパスに登録している観光地の割引サービスのあるカードである。また、最初の2つの訪問地には、無料で入ることができる。

 我々はこの2つの入館料無料サービスのうちの1つを、ボルゲーゼ美術館に使ってやろうという魂胆なのである。なぜかと言うと、ボルゲーゼ美術館の入館料は9ユーロだが、実質は予約が必須なので、予約料2ユーロが取られて11ユーロになる(ちなみに、公式サイトではトータルで13ユーロと書いてある。だが、同時に入館料9ユーロ+予約料2ユーロとも書いてある。おかしい…計算が合わないっ…!摩訶不思議。どっちなんだろうねえ?ネットの情報では、13ユーロの方が正しいという情報もあり)

 それが、ローマパスの無料特典を使うと、予約料も取られずに、本当に無料で入れるそうなのだ。まあ、ローマパスを買っているわけだから、本当は無料で入れるわけではないんですけどね。人間と言うヤツは、こういう「無料」にダマされやすいわけですよ。人間というヤツは。

 そうすると、先払いとなるオンライン予約をしてしまうと、当然ながらローマパスの無料サービスを使うことができない。先払いなワケだから!そうすると、残る手段は、電話予約になる。電話だと、先払いではないため、当日にローマパスを提示すれば無料で入場できるのだ(くどいようだが、厳密には無料じゃないわけですけどね!)

 電話で予約。つまり国際電話で英語で予約(イタリア語でもできますけどね。それは可能性としての「できる」であって、能力としての「できる」ではないわけですよ)。ホテルに電話予約をお願いする手もあったのだが、昔、ミラノの「最後の晩餐」も電話予約に成功した実績を誇る私なので(念のため言っておくが大した実績ではない)、自分でしてみっか!と挑戦してみることにしたのである。

 ネットでは、ボルゲーゼ美術館の予約は、鑑賞日の1~2週間前でなければ取れないという噂があったので、鑑賞予定日の10日ほど前に、日本から電話をかけてみた。最初にイタリア語がいいか、英語がいいかと自動音声で聞かれたので、英語の方にしたよ!

 目の前にはパソコンをスタンバらせて、自分で昔書いた、最後の晩餐電話予約方法の記事を開けておいたよ。もちろんマニュアル英文を棒読みするためだね!

 電話はすぐつながったよ!最初に「どこの美術館の予約だよ?(Which…うんたら)」と聞かれたよ。何でそんなこと聞くね。ボルゲーゼに決まってるよボルゲーゼに(他の美術館予約と電話番号が共通なのかなあ)。

 日付と時間と人数を伝えると、「じゃー、予約番号言うから。31095…」と超早口で言われたよ!31095までしか聞き取れなくて、「ちょっと待ってください!エクスキューズミー!パードン?エクスキューズミーーー!」と悲痛に叫ぶ私を無視して、電話はプツっと切れたよ!…ツー、ツー、ツー…。

 ツー、ツー、ツー…。横で見守ってくれていた姉と、ボー然と顔を見合わせる私。「切られた~~~!」と泣きそうな顔で姉を見る私。…しばしの沈黙の後、我々姉妹は、ほぼ同時に言った。「ま、いっかー!」

 ボルゲーゼ美術館は、予約番号を聞き取れなくても、予約さえちゃんと取っておけば入館できたという、先人の情報もいくつかネットで見ていたため、ま、大丈夫だろーという楽観的空気が姉妹には漂っていた。しかし、これがイタリア旅行お初の時だったら、だいぶクヨクヨ心配しただろうなあ。私も姉も、イタリアってのは、まあ何とかなる国、と、今では認識している。

 というわけで、何とかなってるだろーと思い、この日はボルゲーゼ行き敢行である。まずは、ローマパスを買わねばならない。このローマパス、どこのタバッキでも売っているわけではないらしく、一軒目にはフラれた。でも、売っているお店を教えてくれたので、二軒目でゲットした。

 ローマパス、でかっ!地図と、3枚のカードが入っている。

ローマパス
 左上から順に、ローマニュース、ローマパスガイド、地図。真ん中がローマパスそのもの、その下の2つは、何かネットとかスマホで使える(?)デジタルもの…要するにアナログ旅行の私には無用のもの!右はこれら全てが挟み込まれているケースである。

 さて、我々が宿泊しているホテルは、ジュリア通りという通りの近くなのだが、姉情報によると、この近くを通る116番の小さなバスが、ボルゲーゼ美術館まで行くらしい。で、この116番のバス停を探すのに苦労した。近くにいた地元のおじさんに聞いてみると、ジュリア通りとV.エマヌエーレ大通りをつなぐ小道に停まると言われ、何とかバス停を発見し、そこにバスもやってきた。

 運転手さんに「ボルゲーゼ美術館に行きますよね?」と聞くと、「逆方向だよ!バス停はあっち!」と、ぐるっと曲がった方向にある道を指差す。すると、そこにちょうど反対方向へ行く116番がやって来たので、「待って~!」と追いかけると、このバスは既に他の7、8人の人々に追いかけられていた。みんなで、バス停でこのバス捕まえたよ!

 さて。ローマパスを持ってるから、バスはタダ乗りできる…が、姉曰く、「最初に乗るときにバーコードをかざすんじゃないかなー」とのこと。バス内の刻印機に、電子読み取りっぽい部分があったので、そこにバーコードを近づけてみたが反応せず。すると、一緒にバスを追いかけた人々の数人はローマ人で、「あー、ローマパスだから、何もしなくていいよ!」と言われた。ほ、本当かな~?でも、「ローマではローマ人のするようにせよ(=郷に入ったら郷に従え)」ということわざ通り、ローマ人の言うことに従うことにした。

 一緒にバスを追いかけたうちの4人は観光客の家族で、我々と同じように、バスからの車窓を興味深く見ていた。パパとママと、高校生くらいの可愛い娘さんと、小さな男の子だった。

 それにしても!116バスはおもしろい!ミニバスなので、小さな路地にもスイスイ入って行って、ナヴォーナ広場やパンテオンのような、ローマを象徴するモニュメントを見たと思ったら小さな路地、小さな路地を抜けたらまたモニュメントって感じで、まるでテーマパークのアトラクションのようだった。せまーい石畳の路地を走って行くのでガタガタ揺れるし。それをいちいち面白がっているのは、我々と先述の4人家族だけ!

 次々に地元民が乗っては降り、降りては乗りを繰り返し、我々3人と、4人家族…つまり観光客ご一行様と、ひとりのおじいさんだけが車内に残される頃には、バスは城壁を抜け、明らかに公園!という方向へ走り始めた。ほー。これがボルゲーゼ美術館のあるボルゲーゼ公園ね。あの4人家族も間違いなく本日9時にボルゲーゼ美術館を予約している仲間だね。

 公園の風景を見ていると、おじいさんは自分が降りるバス停…まだボルゲーゼ美術館は見えていない場所で、おもむろに我々3人+4人家族、つまり7人の観光客に向かって言った。「君たちボルゲーゼ美術館だろう?ここで降りて、この道を真っ直ぐ行くんだよ」。「ありがとうございます~!」と言って降車する4人家族と、母と私。
 
 と!その時!姉が「ちょっと待った!ボルゲーゼ美術館の目の前まで、このミニバスは行くはず!」と、母と私を制止した。姉は、「ここで降りるんだってばさー!」としつこく言うおじいさんを振り払って、運転手の窓の方に走って行って(このミニバスは、車内は乗客席と運転席の間にガラスの仕切りがあって話しづらい)、運転手と言葉を交わしてすぐ戻ってきた。「車内に戻って、戻って!まだ先だってさ!」

 4人家族はおじいさんを信じて歩き始めていたため、車内には戻ってこなかった。おじいさんはバスの外で不服そうな顔をしていた。姉「もー。適当なこと言うんだから!親切心とは言え、おせっかいってもんだよ!」。うーん、私が思うに、おじいさんは、ボルゲーゼ公園の中を歩かせたかったんじゃないかなー。天気もいいしね。その方が観光客にもよかろう、というおじいさんの独断だったのでは。でも、ボルゲーゼ公園は美術館の後に歩くつもりだし、美術館鑑賞前に母を疲れさせたくないので、我々は美術館の目の前で降りたいのだよ。

 で、ミニバスは無事にボルゲーゼ美術館の目の前に到着し、そこでバスを降りた。

ボルゲーゼ美術館
 目の前のこの建物がボルゲーゼ美術館。

ボルゲーゼ公園
 美術館の正面にはこの道が続いている。姉いわく、「さっきおじいさんが言った場所で降りてたら、この道のずっと先の方だよ」。目を凝らしてみると、おじいさんにバスから降ろされた4人家族が、遠い所をこっちに向かって歩いているよ!かっ…かわいそうに…。この4人は、美術館に到着した時、我々を発見し、「何であの日本人たちの方が早く着いてるんだろう…」とキツネにつままれたような顔をしていた。

 さあて。ボルゲーゼ美術館。上手に予約できてるかな!?

 受付に並ぶと、当日予約をしようという人々もいたが、撃沈してガッカリしていた。ボルゲーゼ美術館は、2時間入れ替え制で人数制限がある。予約で定数に達すると、そこで入場券販売は終了なのだ。私の番が来た。予約が取れてるかどうかそこまで心配してなかった私は、「9時に予約してるんスけど~、何か予約番号最後まで聞き取れなかったんスけど~」と、必要以上にリラックスしたノリで、名前と人数と途中までの予約番号を告げると、すんなり切符を出してくれた。楽勝、楽勝~!(楽勝とか言ってるが、予約番号が聞き取れてないわけだけら楽勝ではない。辛勝である)

 ここでローマパスをピコっと読み込んだので、バスで何にもしなかったから、ここからローマパスの有効期限がスタートということになるのだろう。そういえば、ボルゲーゼ美術館は荷物預けなきゃいけないんだよな~(小さなハンドバッグは持ち込み可)。荷物預けが見つからなかったので、ちょうど同じ時間に入場する日本人を見つけて教えてもらった。切符売り場のある回廊の、ブックショップ側の方だった。

 9時が近くなると、9時に予約している人々が整然と並び、9時ジャストにゾロゾロと入館した。最初は、らせん状の階段をぐるぐる、ぐるぐる、と前の人について上って行った。全員、カモの親子状態で、前の人についていったため、みんな最上階(2階と表示されるが、日本人の数え方だと3階)から鑑賞スタートとなった。おそらく、1階(日本人の数え方で2階)からの鑑賞もできると思う。

 で、2階の部屋に入ったら、な、なんといきなり!

ボルゲーゼ美術館
 ボ、ボッティチェリ~!(館内撮影禁止のため、ボルゲーゼ美術館作品の写真は、全てポストカード撮影)

 えっ、何?ボッティチェリ作品がボルゲーゼ美術館にあるなんて寝耳に水なんだけど!ボッティチェリに首ったけの私は、今回の旅程からフィレンツェを泣く泣く泣く泣く泣く泣く泣く…(中略)…泣く外した時、今回訪問する町のどこかでボッティチェリが鑑賞できないか、それこそ根こそぎ調べたのだ。その結果、バチカン美術館のシスティーナ礼拝堂オンリーというファイナルアンサーが出たので、今回は一度しかボッティチェリにあえないな…と覚悟していたのに!

 ていうか、この絵は何者っ!?去年ウッフィツィで安売りで買った(アンタ、最愛のボッティチェリくらい定価で買いなよ)ボッティチェリの図録本にも載ってなかったよ!

 しかし、この絵、なかなかいいわね~(うっとり)。聖母の優美な表情、歌っているような表情で後ろに並んでいる天使たちのかわいらしさ。後ろに並んだ子たちは、羽根もついてないけど、おそらく絵の題名から察するに天使。お花を頭に飾って、また一人一人が来ている服がかわいいー!

 このボッティチェリ作品が、ボルゲーゼ美術館で看板作品としてプッシュされていないのは、おそらくボッティチェリの弟子の手がだいぶ入っていると考えられているためと思われる。でもね、ボッティチェリだろうと、弟子だろうと、イイモノはイイですよ!もうね、幸せですよ(思わぬボッティチェリに出会えての乱文をお許しください)

 その先には、ラファエロ!ラファエッロ!ハイ、ラファエッロ!(ちょっと浮かれすぎ)

 ラファエロは3作品あるのだが、一番印象的だったのは、数年前日本に来たこともあるコチラ。

ボルゲーゼ美術館
 「一角獣を抱く貴婦人」

 この絵が来日した時は、写真を見て、「まー、何か普通だなー」と思って見に行かなかったのだが、実物はカナリよかった!女性のこの凛としたマナザシ。甘えたように頼りない表情の一角獣が、思わずかわいいし!

 キリスト教絵画では、一角獣は処女性の象徴。何でも一角獣は人に懐かないけど、処女にだけ懐くらしい。なんだそりゃ。そうすると、この女性は聖母マリア?とも思ってしまうが、ラファエロが描く聖母マリアの印象とは、ちょっと違うようにも思う。それにしてもこの一角獣はかわいい。ちまっとしててかわいいっ!

 他にも有名作目白押しなのだが、全部挙げていくとキリがないっ!ちょっと走りますよー。クラナッハの有名作→キューピッドがかわいくなさすぎる。ドメニキーノ「ディアナの狩り」→もう少しディアナ(アルテミス)はスタイルよくてもいいんじゃ?ヴェロネーゼ「魚に説教する聖アントニオ」→ヴェロネーゼ大好きなんだけど、コレ、水辺に完全に背を向けて、魚じゃなくて人間の方に説教してるだろ?

 ちょっと触れておきたいのが、このボルゲーゼ美術館でもトップクラスの人気を誇る、ティツィアーノの「聖愛と俗愛」。

ボルゲーゼ美術館
 もうこの絵と言えば、このクイズ。「どちらの女性が、それぞれ聖愛、俗愛でしょう?」。一般には、裸体の女性の方が聖愛で、着衣の女性の方が、着飾って虚栄にまみれた俗愛と言われるが、確証はないそうだ。で、私の感想は………「エッ、これ、両方とも俗愛に見えるんだけど!」。

ボルゲーゼ美術館
 左の着衣の女性。美人だが、性格キツそう。うーん、俗愛に見える。

ボルゲーゼ美術館
 右の裸体の女性。こちらも美人だが、聖愛ってこんなに挑発的な表情をするものだろうか?

 とどのつまり、ティツィアーノの描く女性は、清純と言うより、色っぽすぎるのだと思う。ティツィアーノの絵は、華やかな美しさがあり、個人的に、聖女の慎ましさ的なものには似合わないと感じるのだ。もしかしたら、ティツィアーノの絵は、キリスト教絵画よりも、神々が人間くささを持つ、ギリシャ神話絵画の方が似合うのかもしれないなあ。

 ふー。それにしても、ボルゲーゼ美術館は、何だか「濃い」。まだ半分しか見てないのに、何だかお腹一杯だ。しかし、入場制限のおかげで、どんな名作の前もごった返すことはなく、静かで非常に見やすい。最初は予約制の入場制限制はめんどうだなと思っていたが、むしろ、所蔵作品をいい環境で見てほしいという、美術館側のありがたい配慮なのかもしれない。

 さあ、ボルゲーゼ美術館後半戦。下の彫刻&カラヴァッジョのエリアに行くぞー!

 どちらかというと、彫刻より絵画が好きな私だが、ここボルゲーゼ美術館では、私の数少ない好きな彫刻家・ベルニーニの傑作が見れるのである。

 まず、最初の部屋に、いきなり「ペルセフォネーの略奪」。冥界の王・ハーデスが、豊穣と大地の女神デメテルの娘・ペルセフォネーを、「おっ!美人!」と冥界にさらって行ってしまうシーンである。とどのつまり、限りなく犯罪に近いナンパである。

 デメテルがこの後激怒して引きこもり、大地の作物が枯れ果てて冬状態になってしまったため、ゼウスの調停でペルセフォネーは一年の三分の一の期間だけ冥界にいて、残りの三分の二はお母さんの元に戻る、という約束が交わされた。で、お母さんは、娘が冥界にいる期間はやる気を失ってしまうので、一年の三分の一は作物が実らない、四季の起源となりましとさ、と言う、この神話自体私は大好きである。ペルセフォネーはこうして、冥界の女王と春の女神という二面性を持つことになる。何だか深読みしたくなる設定だ。

 というギリシャ神話のエピソードは置いといて!いや、コレ、素敵な作品だよ!ヒゲヅラのハーデスの「何、このムサイおじさん!」てな感じも良いし、それを、マジで嫌がっているペルセフォネーが実に生々しいのだ。「もう、マジやめてー!」と、ハーデスの顔をあっちに押しやってる!

 何とも色っぽいのが、肉付きの良いペルセフォネーの太ももに、ハーデスの指がしっかり食い込んでいるのである。ペルセフォネーの身体には弾力性があるように見え、コレが硬い石でできた彫刻だとは驚きである。ほえー!やっぱりベルニーニはいいっ!

 このフロアはほとんど彫刻なのだが、一室、全てカラヴァッジョ作品に当てられた部屋がある。全部でカラヴァッジョ6作品。ボルゲーゼ美術館は、世界で一番カラヴァッジョ作品を多く所蔵しているのだそうだ。

 そのカラヴァッジョ特別室に置かれたカラバッジョ作品6作の主題は次の通り。奥の方の壁に、左から「果物籠を持つ少年」「洗礼者ヨハネ」「聖ヒエロニムス」。手前の壁に左から「馬丁の聖母」「ゴリアテの頭を持つダヴィデ」「バッカス」。

 …このボルゲーゼ美術館所蔵のカラヴァッジョ作品は「曲者」ぞろいであった。何と言うか、濃いと言うか、何と言うか…。普通に素敵な作品としてサラっと鑑賞できるのは「洗礼者ヨハネ」くらい。あとその右隣の「聖ヒエロニムス」は、聖人と共に頭蓋骨が描かれていて、通常だとギョッとしそうなものだが、むしろこの作品は静かな雰囲気で、他の4作品と比べるとずっと見やすい。

 では、他の4作品だが、まずは、この「聖ヒエロニムス」「洗礼者ヨハネ」と同じ壁の、一番左側に描かれた「果物籠を持つ少年」。この果物籠自体は、ミラノのアンブロジアーナ絵画館にある有名な静物画「果物籠」と同じく、葉が枯れたりしていて、一種のヴァニタス画(日本の無常観に似た、全てのものに死が訪れる…みたいなメッセージ)であろう。

 で、この果物籠を持っている少年が…目はトロンとした上目使い(思い切って言ってしまえば、媚びたような目付き)、口は半開き…。美少年として描かれているのだろうが、イノセンスな美少年と言うよりは、…いかがわしい印象を受けてしまうのだ…。この絵の前に立つと、何かこの少年と目が合ってしまい、何だかドロドロしたような気分になってしまう。

 反対側の壁の3作品は、全てこのドロドロな感じだ。まず左端の「馬丁の聖母」。聖母マリアと幼子イエスが、足元のヘビを踏みつけ、隣では聖母マリアのお母さん・聖アンナが顔をしかめている。もちろんこれは、原罪の象徴でもあるヘビを、聖母子が退治するというテーマだろう。この聖母マリアの衣服の胸元が開きすぎていて、聖母の絵としてはいかがわしい、という理由で、注文主からクレームがついたという作品だが、むしろマリアの胸元はあんまり気にならない。

 気になるのは、聖母とは思えない、ヘビを踏みながらイヤーな顔をしている、その表情だ。この聖母マリア、自分の足でヘビを踏みつけ、さらに幼子イエスにヘビを踏ませようとイエスの身体をささえ、自分の足の上からヘビを踏ませている。コレ、宗教画だと思わずに見たら、子供に何てことさせるんだ…と言いたくなる構図だ。この絵から私が受けた印象は、聖母子の神々しさより、ちょっとしたサディステッィクな女性特有の暴力性だ…。

 その右隣の「ゴリアテの頭を持つダヴィデ」。ダヴィデがゴリアテという巨人を倒し、その生首を持っているという、西洋絵画ではよく見る少し残酷なシーンだが、この作品はちょっとどうかしている。何がどうかしてるかというと、そのゴリアテの生首が、何とカラヴァッジョの自画像なのだ!

 生首はたった今切り落とされたばかりという感じで、口を半分開けて、目はドロンとして眉間にしわを寄せている。全く持って目を背けたくなるような汚い生首で、実際に生首の髪の毛の部分をむんずと持っているダヴィデも、汚いものを持つような目つきでその生首に視線をくれている。…自分の生首を描く画家の心境って、ちょっと理解しがたいものがある。殺人の罪を犯したカラヴァッジョの心の闇、と言葉で言ってしまうのは簡単だが、そう簡単にまとめてしまっていいものなのか、ちょっとわからない。

 最後はその右隣の「バッカス」。このバッカスは「病めるバッカス」とも呼ばれ、フィレンツェのウッフィツィ美術館にある、カラヴァッジョ作の「バッカス」とは全然違う。バッカスはギリシャ神話のお酒の神様で、ウッフィツィ美術館のバッカスは、ほろ酔いで顔は赤身を帯び、肉付きのよいユーモラスなバッカスだが、ここボルゲーゼ美術館のバッカスは、顔色が悪く、気色の悪い薄笑いを浮かべ、鑑賞者の方に目線を投げている。

 ちょうどこのバッカスの向かい側に、「果物籠を持つ少年」の絵があり、どちらの絵も人物が鑑賞者側を見ていて、どちらとも絵の中にブドウが描かれたりしていることから、まるで、「果物籠を持つ少年」が年を取って「病めるバッカス」になったかのような印象を受けてしまう。…何か気持ち悪い。

 この病めるバッカスは、カラヴァッジョの自画像だという説もある。自分の生首を描いたり、死人のような顔色の薄気味悪い自画像を描くカラヴァッジョ。…私はカラヴァッジョ好きなのだが、何だかこのボルゲーゼ美術館のカラヴァッジョ作品は、ちょっと生々しくてドロドロすぎる。その分、深みはあるのだが。重ーい気分になってしまったので、いったんこの部屋を出た。

 その気分を払拭しようと、ベルニーニの彫像「ダフネ」を探した。ギリシャ神話に基づく彫刻で、エロス(キューピッド)をからかった太陽神アポロンが、仕返しに恋の矢を受けてしまい、ダフネという精を追い回す。ダフネはエロスによって、相手を拒絶する矢を受けていたため、アポロから逃げまくり、捕まりそうになった時、月桂樹へと変わってしまい、二度と元に戻らなかった。アポロは悲しみのあまり、その月桂樹で冠を作り、以後月桂樹はアポロのシンボルとなった…という話である。

 ベルニーニ作の「ダフネ」………言葉を失うような作品であった。アポロがダフネを捕まえかけ、ダフネが月桂樹へと変わってしまう瞬間を捉えた作品なのだが、ダフネの指先が月桂樹に一部変化している部分など、直視に耐えないほど痛々しい。ダフネの表情も拒絶感にあふれていて、「あなたに捕まるくらいなら、私は月桂樹になった方がいい」という、彼女の気持ちが痛いほど伝わってくる。

 ちなみにアポロンはイケメンの神だ。このベルニーニ彫刻でも、イケメンに作られている。いくら拒絶の矢を受けたからって、こんなカッコいい人から逃げなくてもよさそうなのに、と思うが、アポロンは求愛の矢を受けてるため、イケメンなのに、どこか酔っぱらったような浮いた表情をしている。相手が嫌がっていることなど、全く見えていない、そんな表情だ。ダフネの指先が月桂樹に変わっているのに、まだそれに気づかずに上の空って感じだ。イヤ、この作品は良かった。痛々しいし、悲しい気分にはなるが、最高の作品だと思う。

 それにしてもボルゲーゼ美術館。カラヴァッジョ作品はドロドロだらけだし(ちなみカラヴァッジョはドロドロした絵だけを描くわけでない。清楚な作品もたくさんある)、ハーデスによるペルセフォネーの略奪といい、ダフネを追いかけまわすアポロンといい、人間の強欲や業のようなものをひしひしと感じる作品が多く、精神的に重たくなる美術館であった。
 
 そもそもボルゲーゼ美術館のコレクションは、ボルゲーゼ枢機卿が、しばしば犯罪スレスレの行為で強引に集めたものも数多くあるというのは有名な話だ。そんなボルゲーゼ枢機卿の執念が、彼が集めた作品に今なお宿っているかのようだった。

 最後は、2時間の鑑賞時間終了10分前に、館内アナウンスが流れ、9時に入館した鑑賞者が全員退館してから、次の11時の予約者が入場して行った。人数制限のおかげで、たった2時間でもゆっくり鑑賞することができた。「重たい」作品の多いボルゲーゼ美術館だが、いろいろ深く考えさせられ、今まで訪問したイタリアの美術館の中でも、特に印象的な美術館だった。予約してでも鑑賞することをぜひおすすめしたい。

 庭の方に出ると、来るときのミニバスで一緒だった4人家族がいて、手を振って別れた。今日はいい天気。外の空気が美味しいっ!本日のローマ散策はまだまだ続く!
 
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貧乏なくせに、イタリア旅行というお金のかかる趣味を持ってしまった、「イタリア旅行貧乏」です。旅行は楽し♪びんぼーも楽し♪がモットーです!
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(limba→辺獄へ和訳改名しました!)

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